従業員を雇用する場合、就業規則を作成しておくと、労務トラブルを未然に防止できるほか、「安心できる職場」という評価が得られ優秀な人材が獲得できるといわれます。就業規則の作成は、円滑な労務管理を通じて法人の発展を図るための重要な要素です。

就業規則の作成について、手続きと内容の両面における留意点を挙げましたので、ご活用ください。

1 手続きの留意点

(1)従業員の人数を確認する

▼常に10人以上の労働者がいる場合

⇒就業規則の作成と届出が法律で義務付けられている

パートタイマーやアルバイトも含めて、いつでも10人以上労働者がいれば、労働基準法により、就業規則の作成と所轄労働基準監督署長への届出(変更の場合も)が義務づけられます。繁忙期だけ10人以上になる場合は該当しません。

 

▼労働者が10人を超えることがない場合

⇒法律上は就業規則を作成する義務はないが、作成した方が望ましい

就業規則は、労働者の具体的な労働条件や守らなければならないルールを定め、トラブルを未然に防止するものです。人数に関係ありません。労基法が労働者を守る法律とすれば、就業規則は経営者を守る「職場の法律」といえます。

 

(2)正社員とパートの構成を確認する

▼正社員とパート労働者の両方がいる場合

パートタイマー用の就業規則を別途作成する

正社員のほかにパートタイマー等の非正規社員がいる場合は、パートタイマー用の就業規則を別途作成すべきです。作成されていない場合は、正社員用の就業規則が唯一の就業規則となり、非正規社員にもこの就業規則が適用されてしまうからです。

 

(3)従業員に就業規則を周知する

▼就業規則は従業員に周知させないと無効になるおそれ

⇒役員だけで管理せず、従業員に見せなければならない

就業規則は労働者に必ず「周知」(従業員が就業規則を見たい時に見ることができる状態のこと)させなければなりません。周知していない場合は、就業規則そのものが無効となるおそれがあります。

労働者への周知には次の方法があり、どの方法でも構いません。

① 常時各作業場の見やすい場所に掲示し、または備え付ける方法

② 労働者に書面を交付する方法

③ パソコン等、その内容を常時確認できる機器を設置する方法

 

(4)雇用契約と違う内容にする場合・就業規則の内容を変更するときは要注意

▼就業規則と個別の雇用契約の労働条件が異なる場合

⇒労働者に有利な方が優先されます

就業規則では、服務規律や始業・終業時刻、賃金等について、法律に違反しない限り、役員の意思で決めることができます。

しかし、労働者と個別に結んだ雇用契約と労働条件の内容が異なる場合には、両者を比べて①就業規則より不利な部分は就業規則が、②有利な部分は雇用契約が適用されます。

 

▼就業規則を変更する場合

⇒不利益な変更でも、合理的であれば有効とされる

既存の労働条件より引下げになる場合でも、その変更が合理的なものである限りは、すべての従業員に適用されるものとされます。

ただし、事前に従業員に十分に説明して合意を得て、変更後の就業規則を周知することが重要です。

 

(5)就業規則を届出するときの留意点

▼就業規則を届出するときのルールを守る

⇒決められた手順を守らないと無効になるリスクがある

就業規則を届出するときの手順は次のように定められています。

(ⅰ)使用者が就業規則を作成・変更する。

(ⅱ)労働者の過半数代表者に内容を確認してもらい、「意見書」を作成してもらう。

(ⅲ)「意見書」、「作成(変更)届」を添えて、所轄労働基準監督署長に提出する。

※意見書は、労働者の意見を聴いたことが証明されればよく、反対する旨の意見書でも構わない。

※過半数代表者は、①労務管理について経営者と一体的立場にある者でないこと、②投票、挙手などの手続きにより選出された者であることが要件。使用者側で決めてはならない。

 

2 内容の留意点

(1)試用期間の決め方

▼試用期間は3ヵ月~6ヵ月が一般的

⇒12か月等の長期間の試用期間は問題

  • 試用期間を設けるときは、試用期間満了時に、「本採用を行わない場合がある」旨を定めておくことが必要です。
  • 仮に試用期間中に解雇する場合は、本採用後に解雇するより、解雇の要件は若干緩いと云われますが、裁判になれば、裁判所は両者を分けて考えない傾向にあります。
  • 正社員として採用する前に、いったん3ヵ月や6ヵ月の有期雇用契約を結ぶのも違法ではありません。ただし、契約時に「期間満了により契約がいったん終了する」「満了時に改めて契約する場合がある」旨を明示することが必要です。

 

(2)時間外割増賃金の決め方

▼農業では割増をつける必要はない

⇒最近では割増をつける法人が増えている

  • 労働基準法第41条により、農業では「労働時間」「休憩」「休日」について適用除外となり、時間外の割増賃金を支払う必要はありません。ただし、深夜労働(22:00~5:00)には割増をつけなければなりません。
  • 最近では、他産業から就農するケースが増加しており、良い人材を獲得するために、敢えて割増賃金を支払う法人が増加しています。また外国人技能実習生に対しては、農業でも割増賃金の支給が必要です。

 

(3)変型労働時間制の導入

▼繁忙期と閑散期で労働時間・休日数に差をつける

⇒農繁期は長く・休日減、農閑期は短く・休日増

  • 農業は労働時間の規制がないため、変型労働時間制導入時の届出は不要です(他産業では必要)。
  • 変型労働時間制とは、業務の繁閑に応じて、月毎に所定労働時間を設定しますが、1年間を平均して1日当り8時間(例)とする方法です。
  • 休日についても、月毎に日数だけを決めておき、前月25日(例)までに作成するシフト表によって与えることが可能です。

 

(4)定年年齢の定め方

▼法令上は定年60歳以上、65歳まで希望者全員雇用

⇒65歳定年とする法人が増えている

  • 国内の全ての企業のうち、65歳定年は2割にとどまっています。優良な人材を獲得するためにも、65歳定年は有利です。
  • 農業就業人口は高齢化しており、65歳定年は当然になってきています。
  • 退職金制度の導入も人材獲得やモチベーション向上の面で有効です。従業員の退職金制度としては、「中退共(中小企業退職金共済制度)」が一般的です。

 

(5)無期転換ルールへの対応

▼パート社員の無期転換に則した対応が求められる

⇒パートタイマー用の就業規則を整備する必要

  • 平成25年4月以降に開始した有期契約で、通算5年を超えて雇用される労働者は、無期労働契約に転換できる権利を有するという「無期転換ルール」が始まりました。
  • 無期転換しても「正社員」とする必要はありませんが、一般的にパートタイマーには定年を設定していないことから、文字通り無期の労働契約が始まってしまいます。
  • パートタイマー用の就業規則に、無期契約となった場合の定年年齢を定めておくことが求められます。同様に、解雇や懲戒、休職制度等を整備することも検討すべきです。

 

(6)服務規律・懲戒処分の決め方

▼服務規律・懲戒処分はできるだけ具体的に決める

⇒就業規則に明記してはじめて行使できる

  • 服務規律は、法人の秩序を維持するための心得や遵守すべき事項を定めたものです。できるだけ網羅的に定めていないと、従業員に注意・指導する根拠が説明できません。
  • 懲戒処分についても、何が処分の対象となるのかを明示し、その処分内容も具体的に特定しておく必要があります。
  • 特に懲戒解雇の事由は、限定列挙していないと解雇が無効となるリスクがあります。