農業における同一労働同一賃金の留意点

「働き方改革関連法」の施行により、正社員と非正規社員との間の不合理な待遇差が禁止されることとなり、今年4月から中小企業にも適用が決まっています(大企業は昨年4月から適用)。当然ながら農業も対象となり、パートタイマー等の非正規労働者を多く使うことも多いため、この法律で何が求められているかを確認し、早めに対策を講じることが必須となります。この度、同一労働同一賃金の内容と留意点について、以下のとおりご案内します。

1.同一労働同一賃金の内容

(1)法律の内容

同一労働同一賃金は、「パートタイム・有期雇用労働法」という法律に定められています。主な内容は、①不合理な待遇差を解消すること、②労働者に対して待遇差を説明する義務があることの2点です。対象となる待遇は、賃金に限らず、賞与・退職金・福利厚生等あらゆる待遇に及び、それぞれの待遇ごとに判断されます。違反した場合の罰則は設けられていませんが、指導・勧告を受ける可能性があり、場合によっては労働者から訴えられるリスクも生じます。

(2)誰と誰の待遇差を比べるのか

同じ法人・会社で働く正社員(無期雇用)と非正規社員(有期契約・短時間労働)を比較して、両者の待遇差が不合理かどうかを問題にします。したがって、正社員のみ、非正規社員のみの法人は、同一労働同一賃金の対象外です。

 

 

 

 

 

 

 

 

(3)待遇差をすべて無くす必要があるのか?

正社員と非正規社員との待遇差をすべて無くす必要はなく、両者の間で、①職務の内容(業務の内容と責任の程度)、②人材活用の仕組み(職務の内容及び配置の変更の範囲)、③その他の事情、が異なれば、待遇に差があって構わないとされています。ただし、その差は不合理な差であってはなりません。このことを「均衡待遇」と呼びます(法第8条)。

一方、①職務の内容と②人材活用の仕組みが両者で全く同じなら、待遇に差自体を設けてはなりません。このことを「均等待遇」と呼びます(法第9条)。

 

 

 

 

 

 

(4)待遇差についての説明義務

事業主は、非正規社員から求められれば、正社員との待遇差の「内容」とその「理由」を説明する義務があります(法第14条)。したがって、待遇についてなぜ差があるのか、その差が不合理ではないと考えている理由を説明し、納得してもらうことが求められます。

2.同一労働同一賃金への具体的対応

(1)待遇差の確認

まず、現在、正社員と非正規社員との間でどんな待遇差があるのかをピックアップします。賃金だけではなく、各種手当、賞与、退職金、福利厚生(休暇、更衣室等)などあらゆる待遇が対象となります。

(2)均衡待遇か均等待遇かの確認

正社員と非正規社員で、均衡待遇と均等待遇のどちらが適用されるのかを確認します。

農業の場合、異動や転勤自体ないことは普通であり、仕事の内容や責任の程度(トラブル・クレーム対応の有無、時間外・休日労働の有無、マネージャー等の役割の違い等)も正社員とパートで異ならないケースがあると考えられます。この場合、「均等待遇」が求められますので、賃金をはじめ全ての待遇を同一にする必要が生じます。

したがって、この場合には正社員の役割を見直して、仕事の内容や責任の程度をパートと明確に変えることが必要です。例えば、正社員はパートの管理・指揮命令を行う、時間外・休日労働はパートにはできるだけさせない、正社員には評価制度やノルマを設ける等が考えられます。

(3)不合理な待遇差はなくす検討を行う

均衡待遇であっても、待遇の趣旨・内容によっては不合理とみなされるものがあります。例えば通勤手当の有無・金額差です。通勤手当とは、自宅から作業場までの交通費の補填として支給するものですから、いくら職務の内容・責任の程度が違ったとしても、正社員と非正規社員で差をつけることは不合理になると考えられます(最高裁判例)。こうした例は、ほかに皆勤手当や、更衣室のロッカー使用、慶弔休暇等が挙げられます。

こうした不合理と考えられ、説明がつかない待遇差は、解消する方向で検討します。

(4)不合理ではないと考えられる待遇差は説明できるようにする

基本給や賞与、退職金の有無・金額差については、職務の内容・責任の程度に差があれば、不合理とまではいえないと捉え、説明が可能になると思われます。ただし、パートから説明を求められた場合には、対応しなければなりませんので、その準備を行っておくことが必要です。

 

 

 

 

 

 

 

3.同一労働同一賃金の基本的考え方

同一労働同一賃金は、法律で「これに違反したら罰則を与える」性質のものではありません。また待遇差が不合理かどうかも、最終的には裁判所で争うほかないため、現状では政府の指針(『同一労働同一賃金ガイドライン』)や判例を参考にするほかありません。

しかし何もしなくてよいわけではなく、同一労働同一賃金の考え方をもとに、非正規社員が納得して働く意欲が生まれる職場にすることが事業主に求められます。また、厳しい措置が求められる「均等待遇」の解消は、最低限取り組むべき課題だといえるでしょう。

以 上